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前回の本欄で取り上げた産業遺産情報センターについて、一部で論争が起きているそうだ。加藤康子センター長が「日本の一部マスコミ、ジャーナリスト」からの批判に反論するため孤軍奮闘していると、月刊誌「Hanada」10月号に書いている。「一部マスコミ、ジャーナリスト」には私も入っているようなので、改めてセンターについて考えてみることとしたい。
センターは、世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」を紹介する施設だ。戦時中に朝鮮人徴用工が働かされた施設が入っていたため、5年前の登録決定時にもめた。日本はその際、1940年代に厳しい環境下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいたことや徴用政策について理解できるような措置を講じると約束した。
そして6月にセンターの公開が始まると、韓国が「約束を守っていない」と反発した。ただ見学した私の感想は、約束を履行していると言うための最低限の措置は取られたようだというものだった。
前回のコラムでも触れたが、センターの問題点は「約束を守ったか」とは別の点にある。展示内容に対する韓国の反発とは、切り離して考えるべきだ。
私は前回、「端島は地獄島だった」と非難する韓国の絵本「軍艦島」を取り上げ、絵本の描写が1880年代の高島炭坑に関する記録に似ていると指摘した。その上で、「問題の絵本は第二次大戦中の端島を舞台にしているはずなのに、それより半世紀あまり前に『惨状』を報じられた高島炭坑の状況を借用してきたようにも思える。本当にそうであるなら、作者は批判されてしかるべきだろう」と書いた。
絵本への疑問を呈したのだが、加藤さんは違う理解をしたようだ。「Hanada」で「今度は高島を地獄島だったと言い始めたのです。具体的な根拠はあるのでしょうか」と私を批判している。
だが、高島の労働環境が非人間的と言えるほど苛酷だったことは有名だ。私のコラムでは、三菱鉱業セメント(現三菱マテリアル)が閉山後にまとめた「高島炭砿史」(1989年)などを根拠として明示した。
同書によると、1880年代には坑夫たちの暴動がたびたび起きた。感染症が流行し、コレラで1日の死者が80人を超えた日まであった。天然痘でも計99人が死亡した。逃亡者が出たので監視所を作って取り締まり、近県では労働者を集められなくなって神戸や大阪など遠隔地で募集せざるをえなかったという。
度重なる感染症流行で産炭量の低下に見舞われたため、会社側は労働環境の改善に乗り出した。改善前後に現地視察をした医師の報告書によると、改善前には、食事は粗悪、住居は不潔、坑夫は裸体、労働時間は1日12時間と散々だった。
会社側の公式記録がこれだ。当時の新聞や雑誌の告発記事には、もっとひどい状況が描かれている。ちなみに当時はまだ日韓併合の前なので、朝鮮人労働者は基本的にいなかったはずだ。
そして、日本政府は5年前の世界遺産委員会で「犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置」を取るとも表明した。外務省によると、犠牲者とは「出身地のいかんにかかわらず、炭坑や工場などの産業施設で労務に従事、貢献する中で、事故・災害等に遭われた方々や亡くなられた方々」である。
加藤さんも著書「産業遺産」(1999年)で、産業遺産に対する英国の向き合い方を次のように称賛した。
「特筆すべきは、産業遺産保存の先進国のイギリスで、貴族や発明家のもたらした光の部分だけでなく、パンとチーズを求めて真っ黒になりながら働いていた労働者の生活や苦しみをきちんと直視し、そうした陰の部分をも客観的かつリアルに次世代に伝えている点である。日本社会も成熟したとはいえ、文化的に暗い陰の部分を併せ持つ産業文化を、私たちは正しく次世代に伝えていくことができるであろうか。イギリスに見習うべき点は多い」
それなのに、加藤さんにセンターを案内してもらう間、高島炭坑を含めて「犠牲者」についてきちんと説明されることはなかった。「犠牲者」への言及は、高島でのコレラ流行時の状況を主に紹介した5月の朝日新聞の記事に端島の写真が使われていたことを問題視し、「コレラの死者を酒だるに入れて焼いたって書いてあるけど、それは端島じゃなくて、高島なんですよ。これじゃ端島でそんなことがあったと読者は思っちゃう」という朝日批判の文脈でだけだった。
センターで配布されているガイドブックの石炭編を見ても、「日本の石炭産業の近代化は、長崎県長崎市の高島から始まりました」と説明される一方で、高島炭坑の開発初期に「坑夫の暴動などが相次ぎ」と記述されるだけである。
私には、センターが「陰の部分」や「犠牲者」と向き合っているようには見えない。
センターには、端島では朝鮮人差別などなかったという…
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September 03, 2020 at 02:00PM
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日本人労働者の血と汗、そして産業遺産を考える | オアシスのとんぼ | 澤田克己 - 毎日新聞
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