
安定した収益を確保できると謳われ、昨今人気の高まる不動産投資。しかし、オリンピック後における不動産価値下落の可能性や、生産緑地の2022年問題など、今後の業況への不安感は増しています。賃貸、売買、ビジネスホテルなどの事業を手がける松本俊人氏は、「不動産市場の冬の時代」到来を予言し、素人が賃貸経営を始めることを危険視しています。
今からの「不動産投資」は慎重にしたほうがいい
不動産市場に冬の時代が来るという私の言説を、歓迎しない人もたくさんいるでしょう。なにしろ、現在は不動産投資が一種のブームになっていて、書店に行けば「不動産投資」の本がたくさん平積みされていますし、不動産業界も「地価上昇」のニュースに踊らされているからです。
しかし、考えてもみてください。もしも不動産投資がそれほどまでに儲かるものであるならば、なぜ不動産のプロフェッショナルである不動産屋は、自ら不動産を購入してアパート経営を始めないのでしょうか?

投資するより、させるほうが儲かるのだ…!
(画像はイメージです/PIXTA)
答えは明白だと思います。不動産投資(アパート経営)は、手間がかかって、リスクが大きく、堅実なビジネスではないからです。それよりも、お客様に対して「不動産投資」を勧めて、仲介手数料で収益を上げるほうが、よほど確実に儲けることができるからです。
不動産屋のなかには「お金がないから」という理由を述べる人もいるかもしれません。しかし、サラリーマン大家さんと、まがりなりにも会社組織である不動産屋を比較して、どちらがよりお金を借りやすいでしょうか。銀行がお金を貸したいと思うのはどちらでしょうか。
これも答えは明白です。住宅ローンを除けば、会社のほうが個人よりも断然お金を借りやすいですし、素人のサラリーマン大家さんよりも、プロフェッショナルな不動産屋のほうが、よほど「不動産投資」に成功する確率が高いはずです。にもかかわらず、不動産屋の多くは、自ら「不動産」に「投資」してアパート経営には乗り出しません。理由はやはりリスクが大きいからです。
2007年に、ミニバブルと呼ばれた不動産価格の上昇がありました。もしかすると読者のなかには、「不動産投資」のチャンス到来かと飛び付いた人がいたかもしれませんが、ご承知のように2008年のリーマンショックであっというまにバブルははじけてしまいました。
一般の方は、不動産屋は全て「不動産投資」をしていると思っている人がいるかもしれませんが、真逆です。ほとんどの不動産屋は、自らお金を出して不動産の購入なんかしません。街の不動産屋の仕事の大半は、仲介業と呼ばれる、一種の情報ビジネスです。不動産を買いたい、あるいは借りたいお客様と、売りたい、あるいは貸したいお客様とをつなげて、仲介手数料をいただくのが不動産屋の主なビジネスです。
ただし、仲介業だけではなかなか会社を大きくするのが難しいので、業態を広げてさまざまな領域に手を出している不動産屋が多いことでしょう。たとえば、仲介ビジネスでも、賃貸を得意とする不動産屋と、売買を得意とする不動産屋とに分かれるのですが、賃貸仲介の会社はお客様の物件の管理を手掛けていることも多いです。
一方、売買を行う不動産屋は、プロフェッショナルな目利きで、掘り出し物を購入して、リフォームなどを施してから売却することで利益を上げることもあります。なかには、土地を購入して、マンションや分譲住宅を建設し、自ら販売するようなビジネスを手掛ける不動産屋もありますが、こうなると不動産屋というよりはデベロッパー(開発業者)の領域に入ってくるでしょう。
いずれにせよ、いわゆる不動産投資(アパート経営)をメインに手掛ける不動産屋は、あまり見たことがありません。なぜならば、賃貸住宅の経営は、空室リスクがあるうえに、投資額を回収するのに長期的な時間がかかるからです。
もっとも、大家さんからアパートを丸ごと一棟借り上げるかたちで、自ら入居者を集めるサブリースを行っている業者は少なくないようです。これも、不動産屋というよりは、そのアパートを建設するデベロッパーが、大家さんへのサービスとして行っていることが多いようです。
不動産投資を行う素人大家さんへの逆風が強くなる
では、いわゆる不動産投資(アパート経営)を行っているのは、いったいどのような人たちなのでしょうか。私が見るところ、不動産投資のメインプレーヤーは、土地を多く持っていて、遊ばせていてはもったいないからと考えた昔ながらの地主さんです。すでに土地を持っているので土地購入の必要がないですし、節税という目的もはたすことができて一石二鳥です。
しかし、地主さんの場合は、すでにある土地に新築でアパートを建設しなければならないので、結構、初期投資金額がかさみます。そのため、思ったように入居者が集まらないと、アパートの建設資金の返済に苦労することになります。
一方、不動産投資をビジネスと考えて、新たに参入してくる個人投資家もいます。この方たちはよく勉強していて、できるだけ安い物件を買って利回りが高くなるように計算しているので、成功する方も少なくありません。
いずれにせよ、不動産投資の世界には、成功する勝ち組と、入居者が集まらずに苦労している負け組がいることは事実です。いったい何が、勝ち組と負け組を分けているのでしょうか。
私見ですが、不動産投資に成功する方というのは、アパート経営をきちんとビジネスととらえていて、自ら勉強して知識を身につけることをいとわない、プロフェッショナル意識の高い人です。
それに対して、ただアパートを持っていれば、それで不労所得を得ることができるだろうと甘い考えを持つ大家さんは、最初こそ威勢がいいのですが、数年間も経つと、入居者の減少にストレスをためて、だんだんとつぶれていきます。
ましてや今は、ある種の「不動産投資」ブームで、市場にはセミプロの大家さんがたくさんいます。努力する気があまりなく、株や債券のように黙っていても配当やクーポンが得られると考えている素人大家さんは、生き馬の目を抜くような「不動産投資」の世界でサバイバルすることは難しいのではないでしょうか。
ちまたにあふれている不動産投資の本は、読者に対して投資を勧める都合上、どうしても苦労や努力はあまりアピールせず、株や債券と同じような簡単なものと印象づけようとする傾向が強いようです。
しかし、不動産投資はそんなに甘いものではありません。私の会社は、賃貸アパートの管理や仲介、あるいは一時的にオーナーになることもあるのでよく知っているのですが、アパート経営とは、それほど楽なものではないのです。
入居者募集、クレーム対応…アパート経営は甘くない
多くの人が苦労するのは、まず入居者の募集です。もちろん、新築のアパートであればそれほどの苦もなく入居者を集めることができますが、築5年、10年と古びてくるに従って、確実に人気が落ちてきます。
みなさんだって、築10年のアパートと新築のアパートが同じ価格で出ていたら、迷わずに新築のアパートを借りるでしょう。それと同様に、年月を経たアパートは、設備も古いし、見栄えも悪いし、入居者にとっては敬遠したい物件になります。なにしろ、この空き家過剰時代、近隣にいくらでも入居者を募集しているアパートがあるのです。
また、無事に入居者が決まったとしても、数多くの入居者を抱えていれば、どうしても一定の割合で、クレームに悩まされることになります。「クレーム」と書きましたが、入居者にしてみれば、正当な注文かもしれません。なにしろ入居者はお金を払っている「お客様」です。大家や管理会社には、その代金の対価として、快適な居住空間を提供する義務があります。
そのように考える方が増えたために、最近の管理会社は大変疲弊しています。もちろん大半の入居者は、気持ちのいい「お客様」なのですが、なかには、家賃を滞納したり、他の方に迷惑がかかるような騒音や悪臭を発したりされる人もいます。あるいは、禁止されているペットをこっそりと飼ったり、室内に回復不可能なほどの傷をつけたり、犯罪を起こしたりする人もいます。
不動産投資でアパート経営を行う大家さんが、もしサラリーマンだったとしたら、にわかには信じられないようなトラブルが続出することもあります。アパート経営も順調にいっているうちはよいのですが、万が一のトラブルに見舞われたときが正念場です。
本気で取り組んでいる人は、入居者からの訴訟にも脅迫にも負けずに対応できますが、不労所得を夢見て参入した素人大家さんは逆境に弱いことが多く、そうなるともう、アパートを売却して、不動産投資から足を洗いたくなるようです。
不動産業界にも消費者保護の観点が導入されて、大家さんには逆風が吹いています。昔は、住宅供給が少なかったので、大家さんはふんぞりかえって偉そうにしていても、入居者のほうが頭を下げて菓子折りなどを持ってきたものですが、今は正反対です。大家さんのほうが頭を下げて入居してもらわなければならないですし、昔のように敷金や礼金を何カ月分ももらうことはできません。
礼金や敷金がゼロという物件も珍しくなくなりましたし、たとえ敷金をいただいても、退去時には耳をそろえて返却しなければならなくなってしまいました。昔は、前の入居者からいただいた敷金で、次の入居者のためのクリーニングをしたものですが、今ではクリーニング費用は大家さんの持ち出しになってしまいました。
それでも不動産投資を行いたいというガッツのある方にはぜひ参入してきてもらいたいですが、そうでない方には、もはやアパート経営はお勧めできる投資方法ではなくなっています。
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