いま、宮崎市は「餃子(ギョーザ)」で、ひときわ盛り上がっている。餃子の町として有名なのは栃木県宇都宮市と静岡県浜松市。総務省が行う家計調査で、一世帯あたりの餃子購入額においてトップ争いを続ける「二強」だ。ところが今年、ランキングに異変が起きた。宮崎市が2020年上半期の餃子購入額、購入頻度でともに日本一に。「二冠」獲得は史上初だという。宮崎牛・地鶏の炭火焼きや、マンゴーのイメージが強い宮崎でいったいなぜ急に「餃子」がブームになっているのか? 宮崎市を訪ねてみた。
(文・写真:池田陽子)
「手土産に餃子」の土地柄 巣ごもり需要が追い風
「あまり知られていなかったのですが、これまでも宮崎市は10位以内に入っていたんです」と語るのは、「宮崎市ぎょうざ協議会」会長の渡辺愛香さん。
「宮崎人は餃子が大好き。とくに生の餃子を購入して、家で焼いて食べる文化が根付いています。『手土産に餃子』も定番。冠婚葬祭で餃子が当たり前というエリアもあるんですよ」。こういった餃子文化が背景となって、新型コロナウイルス禍による「巣ごもり需要」で売り上げを大きく伸ばしたことが、今回の日本一の理由らしい。
ご当地餃子といえば、宇都宮は「あんが野菜中心」、浜松では「ゆでたモヤシを添える」といった特徴がある。ところが、宮崎の餃子は、渡辺さんいわく「見た目、皮、具材にこれといった共通項はない」。
「皮は薄かったり、厚かったり、色付きだったり。あんに使う具材も店によって違います。決まりはなくて『てげてげ』」。てげてげ、とは宮崎弁で「適当」という意味。「なんでもあり。自由度が高いんです。バリエーションが豊富なのが魅力ですね」
地元の食材にとことんこだわり
しかし唯一「てげてげ」ではない点がある、と渡辺さんは続ける。
「宮崎県産の肉と野菜をふんだんに使っていること。これが『宮崎餃子』のおいしさの秘密です」
宮崎県は畜産産出額で全国3位(2018年)、そして国内有数の農業県だ。「温暖な気候、豊かな自然の中で育った宮崎の肉や野菜のおいしさはバツグン。しかも新鮮なものが手に入ります。これは宮崎餃子のおいしさに大きく反映されていると思います」と渡辺さん。
「どこのお店に行ってもいつも思います。本当においしいなあって。このおいしさを全国の方に知っていただきたいと強く願っています」
渡辺さんが会長を務める宮崎市ぎょうざ協議会は、「上半期購入額日本一」を受けて、市内の餃子販売店、卸売事業者などが9月に設立。「宮崎を通年日本一の餃子の街に」と意欲を燃やし、PRに努める。
肉と野菜のうまみじわり ラーメン店「屋台骨」の餃子
「この勢いで、宮崎を『餃子の年間王者の座』に」と奔走する渡辺さんは、宮崎市に系列店を含め五つの店舗を構えるラーメン店「屋台骨」の餃子事業統括マネージャーでもある。業務用商品も製造する「屋台骨」の餃子は、主力のラーメン並みの人気を誇っている。
「うちの餃子はラーメンとともに楽しんでいただける味わいの餃子。そして宮崎の食材にこだわっています」と渡辺さん。材料となる豚肉は「まるみ豚」。自然豊かな川南町で育てられ、肉質がやわらかく、うまみが強いブランド豚のモモ肉と腕肉をブレンドして使う。「モモだけだと、上品になりすぎるので、荒々しい腕の部分もプラスして強さを出しています」
ミンチにした肉は、西都市の契約農家から仕入れた新鮮なニラ、キャベツ、ニンニクを低速のミキサーで3段階に分けて混ぜ合わせる。
「一気に混ぜると野菜がヘタってしまうので」と渡辺さん。理由は、それだけではない。「季節によって野菜の水分量、豚肉の脂の付き方が変わります。そして温度、湿度でも混ざり方は変わってくる。そこを考慮しながらあんを仕上げる必要があるんです」。年間を通じて安定した味わいを保つには、長年のカンと経験が必要だという。
パリッとしていながら、もちもちの食感、そしてさらにうまみのある味わいを出すために、「プライムハード小麦粉」を使用した自家製の皮であんを包み、焼き上げる。
うまみとコクを加えるために、宮崎県産の豚脂肪分を精製した上質な「自家製ラード」で焼くのも、「屋台骨」のこだわりだ。
カリッと香ばしく焼き上げた餃子を前に渡辺さんが、ひとこと。「まずは、何もつけずに食べてみてください」
そのままかじってみる。カリッ、もちっとしたうまみのある皮、そして口の中にジューシーな肉のうまみ、キャベツやニラの甘みが広がる。素朴な味わいだけれど、素材ひとつひとつの食感や味わいがきっちりと感じられる。
そして、タレをつける必要をまったく感じないほど味がしっかりしているため、調味済みかと思いきや「調味料は、ほとんど使っていません」と渡辺さん。「肉と野菜のうまみです」
それぞれの存在感が見事なハーモニーを奏でる餃子は宮崎食材の力と、作り手の技あってこそ。ラーメン店のサイドメニューが、このクオリティで3個100円(税別)! いきなり宮崎餃子のポテンシャルに衝撃を受けた。
歓楽街ニシタチの老舗専門店「黒兵衛」
宮崎市でも長い歴史を誇る餃子の名店が「黒兵衛」。宮崎最大の歓楽街・西橘通り(通称ニシタチ)にあり、メニューは餃子のみ。宮崎市民から絶大な支持がある老舗であり、全国にもファンが多く、プロ野球のキャンプシーズンには選手たちも多く訪れる。
「もともとは、旧満州から引き揚げてきた祖父が現地で覚えた餃子を提供するために、延岡市内でお店を立ち上げたのがはじまり。父が1979年、宮崎市内に店をオープンしました」と語るのは「黒兵衛 中央通り店」の黒木航平さん。
父・賢次さんのもとで9年間修業したのち、昨年4月に独立。本店同様の味わいを提供するとともに、「スープ餃子」など新たな餃子メニューにも挑む。
黒兵衛の餃子も、宮崎県産食材にとことんこだわって作られている。肉は県産豚肉と牛肉の合いびきを使用。野菜は宮崎県産のキャベツ、ニラ、ニンニク、そして甘みを加えるためにタマネギも使う。「野菜本来の味をしっかり感じていただける餃子を目指しています」と黒木さん。
じっくりと粘り気が出るまで肉と野菜を混ぜ合わせたあんを、自家製の皮で包む。「1日1000個以上包みますね」と、黒木さんが見事な手さばきで餃子を包んでいく。
包み方は、はじっこをあけるのが黒兵衛流。空気を逃して、皮がふくらまないようにするためだ。
餃子は鉄板ではなく、フライパンにラードを入れて焼く。餃子を並べたらお湯を入れ、ふたをして蒸し焼きにする。パチパチはねるような音が消えたら火が通ったサイン。ふたを開けてさらにラードを入れ、焼き上がりにムラが出ないようにフライパンをつねにゆすりながら焼いていく。
ぷっくり焼きあがった餃子は、どれも底の部分が見事なきつね色。なんだか小さなピロシキのようだ。
こちらでも、まずは何もつけないでかじってみる。皮はカリッ、もちっ、ふわっ。うまみの中に絶妙な甘みを感じるあんは、極めてナチュラルな味わい。そしてあんの中のキャベツもニラもシャキシャキ、ニンニクですら、シャキッ。ひとつ食べたらとまらなくなる軽やかさ。
カウンターの常連さんが「ちょっとつまんでニシタチで一杯、飲んだ後もまた食べてるね」と笑う。私も、ビールを片手にあっという間に1皿食べ尽くした。
羽根つき、チーズがけ ユニークな「丸鐡餃子」
同じニシタチには、ユニークな餃子で人気を集めている店がある。2017年にオープンした「丸鐡(まるてつ)餃子」で、スタイリッシュな店内では、個性あふれる多彩な餃子が楽しめる。
「ニシタチというロケーションなので、飲んだ後に〆になるものを提供するお店にしたい、と考えました。ラーメンやうどんではなくて、何か目新しいものがないかと思案したときに、宮崎ならではの餃子がいいんじゃないかと思いついたんです」とマネージャーの福留弥寿子さん。「オリジナリティーがあるものを」と、日本全国の餃子を食べ歩いてメニュー開発にあたったという。
一番人気の「丸鐡餃子」は「羽根つきの鉄鍋餃子」だ。「鉄鍋で焼いた餃子をそのまま出す福岡の『鉄鍋餃子』は、お客さんにも楽しんでいただけていいかなと思って。でも、それだけでは面白くないので『羽根』も付けました(笑)」
鉄鍋を覆うように羽根が広がった餃子は、出されるなり「わあ!」と声があがる名物になったが、こちらでも、宮崎の食材を使い、とことんこだわりを尽くしている。肉はえびの市の「いもこ豚」を使用。キャベツ、ニラも宮崎県産。季節に合わせて分量を調整し、ていねいに練り上げ、サイズ、厚みなどに研究を重ねて特注した皮で包む。鉄鍋に並べ入れたら、特製の「羽根液」を流し込んで焼きあげる。
またしても、何もつけずに食べてみる。パリッ、サクサクの羽、カリカリの皮のあとに、もっちりしたあん。いもこ豚と野菜が醸す甘みに驚く。このままで十分おいしい! そして、宮崎ならではの焼酎に合う味わいだ。「うちでは餃子をいろいろなお酒とともに味わっていただければと思って、焼酎、ワイン、シャンパンなどもそろえています」と福留さん。
スナック感覚で楽しめる揚げ餃子は、あんのモチモチがグンと増して、まるで、あんこのようなむっちり感。揚げ餃子というと、「皮の風味ばかり」といったことが多いけれど、こちらはおまんじゅうのようにぴたっと皮とあんが一体化していて、じつにおいしい。こちらも焼酎にぴったりだ。
「チーズ餃子」は鉄鍋餃子にとろけるチーズ、ブラックペッパーをかけて仕上げ、こちらはワインが進む味わい。ニンニクを使わずショウガをきかせた「生姜(しょうが)餃子」はキリッとした辛みで、シャンパンに合う。
宮崎餃子を食べ歩いて、ふと、渡辺さんの言葉を思い出した。
「餃子ってあんをこねてしまえば、どれも一緒に思えますよね。でも、そんなことはないんですよ」
たしかに、そんなことはなかった。宮崎餃子は食材ひとつひとつが、餃子になっても輝いていた。そして共通していたのは、宮崎の太陽のもとに育った健やかな肉と野菜の力が身体にしっくりなじみ、英気を養うような味わい。食べ進めるうちに、なんだか、どんどん元気が出てくる。
「パワーアップ」できる、おいしい宮崎餃子体験を、ぜひ。
■黒兵衛
http://www.miyazaki-kurobee.com/
■丸鐵餃子
https://www.hotpepper.jp/strJ001194244/
PROFILE
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「あの街の素顔」ライター陣
こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希
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池田陽子
薬膳アテンダント、食文化ジャーナリスト、全日本さば連合会広報担当サバジェンヌ。
宮崎生まれ、大阪育ち。立教大学社会学部を卒業後、広告代理店を経て出版社にて女性誌、ムック、また航空会社にて機内誌などの編集を手がける。カラダとココロの不調は食事で改善できるのでは?という関心から国立北京中医薬大学日本校に入学し、国際中医薬膳師資格取得。食材を薬膳の観点から紹介する活動にも取り組み、食文化ジャーナリストとしての執筆活動も行っている。趣味は大衆酒場巡りと鉄道旅(乗り鉄)。さばをこよなく愛し、全日本さば連合会にて外交担当「サバジェンヌ」としても活動中。著書に『ゆる薬膳。』(日本文芸社)、『缶詰deゆる薬膳。』(宝島社)、『サバが好き』(山と渓谷社)、『「サバ薬膳」簡単レシピ』(青春出版社)など。
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December 09, 2020 at 05:01AM
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