
ひとまず「現状維持」だが
手探りが続くFRB
4月29日の連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、金融政策を据え置くことが全会一致で決まった。
州によっては経済活動再開の動きも一部、始まったが、とてもFRB(米連邦準備制度理事会)の対応が一段落という状況ではない。
原油価格急落の追い打ちもあって、4-6月期の実質GDP成長率は大幅な落ち込みが予想され、市場の流動性維持や企業の資金繰り支援の対策の次には「難しい問題」を抱える。
社債購入に「やり過ぎ」の声も
市場の機能を損なうリスク
振り返ると、パウエルFRB議長が近い将来の利下げの可能性を匂わせたのはほんの2カ月前のことだった。
その後、二度の緊急利下げで政策金利は事実上のゼロ金利まで下げただけにとどまらず、短期市場への大量の資金供給、さらには、米国債やエージェンシー住宅債権担保証券(MBS)などの様々な金融資産を購入の対象に広げ、ついには、禁じ手と位置付けられてきた社債の購入にも手を付けた。
3月22以前に投資適格級であったことを条件にハイリスクのジャンク債も購入対象としたのだ。主要国の中央銀行自らが個別企業のクレジットリスクを負う異常な政策だ。
矢継ぎ早の対応で確かに、短期金融市場での緊張は落ち着いた。ドル資金の貸借に以上なコストが発生しない以上、金融システム不安が急速に高まって、それが経済活動を止めてしまうというリスクシナリオは封じ込むことができる。
しかし、資産購入の対象の拡大については「やり過ぎなのではないか」と懸念する声が少なくない。
一つは、中央銀行でありながら個別企業の信用リスクを負うというのはいかがなものか、という定性的な懸念だ。
社債などのクレジット資産は、米財務省とともに設立する特別目的事業体(SPV)を経由して購入される。従って、FRBが直接に保有するわけではないのだが、市場が大きく変動した際のリスク管理はどうするのか、といった切実な問題がある。
社債などが暴落した際の損失は財務省出資分でまずは補てんされるが、損失が大きくなると、FRBのバランスシートが棄損し、ドルに対する不安から「ドル暴落」の恐れがある。
通貨の番人である中央銀行がそのようなリスクを負っていいのだろうか、という疑念はぬぐえない。
もう一つの懸念は中央銀行が市場に積極的に介入することを通じ、市場による価格発見の機能がゆがめられてしまうことだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で消費や生産が落ち込んだ経済活動をてこ入れするべく、財政支出のさらなる拡大は必至だ。
財政出動を伴う政策パッケージとして、すでに第三弾までが発動済みだが、第三弾の財政支出の規模は実に2.3兆ドルと、米国のGDPの1割近くになる。
米議会ではさらに、第四弾の議論が始まっているという。
そうなれば、公的債務はさらに膨らみ、増発される国債の引受先は、直接、間接的いずれにしてもFRBになるはずだ。国債市場におけるFRBの存在感が一段と大きくなることになる。FRBの買い入れが国債市場の価格や金利を“管理”してまうことになりかねないというものだ。
「次の一手」は長短金利操作か
日本の例をみて慎重姿勢
中央銀行の積極的な介入が市場の価格発見機能を低下させるという問題は、日本の場合が先行事例になっている。
2013年の異次元緩和以降、日本銀行は流通市場からの国債の買い入れペースを加速し国債市場の流動性をきわめて下げてしまった。
問題視されたのが、国債増発で財政のリスクが高まっているにもかかわらず日銀の購入で金利が人為的に抑圧されてしまうという危険だ。
価格発見機能が欠如した状態で、その後、さらにマイナス金利政策が導入され、年限の短い金利だけでなく、長期・超長期の国債の利回りまでマイナス圏にまで沈んだ。これによって、年限の長い国債を持つ生命保険会社や年金基金の懐は痛んだ。
さすがに国民の年金資産や保険の将来の受け取りを棄損するのは問題が大きい。そこで長期・超長期金利がマイナス圏に入らないように事実上の下限を、「誘導目標」として設定したのが、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)だった。
現状、誘導目標は10年国債利回りをゼロ%近傍とされている。金利はマイナスになってはいないが、金利上昇を抑制する効果もあれば、低下圧力を緩和させる効果も併せ持つ制御力の強い政策であることには変わりはなく、問題はまだ解決されていないといえよう。
FRBの今後の金融政策をめぐって、市場関係者の間では、この日銀の経験や欧州の類似した先例もあって、いつイールドカーブ・コントロールが導入されるのか、あるいは導入されるとなれば、どの年限の金利が何%にペッグされるのだろうか、という憶測がやまない。
さらには、金利はもうゼロなのだから次に金利に働きかけるのであればマイナス金利だろう、という観測もある。
だが米国経済と市場の現状からいうと、FRBが近い将来にマイナス金利の導入やイールドカーブ・コントロールの採用に一足飛びに進むとは考えにくい。
FRBはマイナス金利政策の副作用を見ており、この政策がいかに金融機関の体力をそぐことになっているか、日本などの先行事例をもとに知り尽くしているはずだからだ。
今回のコロナショックが経済に打撃を与えているメカニズムは、2008~2009年のリーマンショック時とは因果関係が大きく異なる。
リーマンショック時のトリガーは住宅市場のバブル崩壊だった。
住宅価格の値上がりを前提にしたサブプライムローン債券など、リスクエクスポージャーを持っていた金融機関のバランスシートが傷んだことで金融システムが不安定化し、ドルの流動性が瞬時に枯渇した。
流動性の枯渇は企業にとっての資金調達の機会を奪い資金繰りに窮した企業の大型倒産の多発と失業率の大幅上昇をもたらした。
今回は、新型コロナウイルスの蔓延で強制的に経済活動を制限させられたのがスタートだ。
金融システムは今のところ安定しており、ドルの流動性についてもFRBの果敢な対応により足元では目立って大きな問題はない。
外出制限や営業停止で需要が突如、なくなった企業にとって金利コストを下げたからといって足元の資金繰りが助かるわけではない。
中央銀行としてリスクを取りすぎていると批判される政策でありながらも、社債の購入などを通じ金融面で企業の資金繰り支えようとする理由はここにある。
落ち込み大きく読めない先行き
フォワード・ガイダンスは示さず
パウエル議長は、29日、FOMCの声明文公表後の記者会見で、現状の緩和政策を維持することが最適だの発言を繰り返した。
FRBだけでなく近年の中央銀行は、既存の政策パッケージだけでは将来経済が下振れした時に対応しきれないと判断される場合、具体的に将来どういった経済状態になるまで現状の緩和政策を維持する、と声明文などに書き込む傾向がある。
これは、先行きの政策の方針と方向性を事前に示すという意味で、フォワード・ガイダンスという。
だが今回の声明文にはこれといったフォワード・ガイダンスはなかった。
同日に発表された今年1-3月の米国経済の実質GDP成長率は前期比年率でマイナス4.8%と非常に悪い結果だったが、4-6月期もマイナスが見込まれる。2期連続のマイナス成長で、米国経済はいわゆるリセッションに陥る状況だ。
しかも4-6月期の成長率は、年率換算で前期比マイナス30%や40%ともいわれる。
GDPを推計するにあたっての基礎統計がほとんど出ていないため推計のしようがない状況なのだが、過去、GDPと同じような変化を示す傾向のある週次統計からいえば、それぐらいの落ち込みになってもおかしくはない。
この未曽有の展開を前に、市場では、FRBが既存の政策パッケージの維持に加えてフォワード・ガイダンスでさらに緩和スタンスを強化するだろうと事前に予想されていた。
今回、FRBは、既存の政策パッケージを万全と考えてフォワード・ガイダンスを示さなかったのではなく、できればフォワード・ガイダンスで緩和スタンスを強化したいところだったが、経済の先行きがあまりにも見えないためにやめたということなのだろう。
経済指標がどこまで悪化するか分からないうえ、仮に経済が回復するとしても、どこで底入れするかは、経済活動の再開のペースや、その前提である感染拡大が止まるかは、人々の社会的距離感の維持がどこまで徹底されるかに強く依存する。
FRBがそういうことまで見通すのは難しく、ガイダンスを示しようがない、と判断したのだろう。
追い打ちになった原油急落
デフレ回避が新たな課題に
パウエル議長は記者会見で、必要に応じてさらなる追加措置も辞さない考えを示したが、既往の政策パッケージの中でも、例えば企業への資金繰り支援をどこまで拡充するかなど、議論の余地があることを匂わせている。
政策を矢継ぎ早に展開しただけに、その効果や追加の必要があるかどうかについてはFRBも手探り状態のようだ。
現状のパッケージの主な目的は、市場機能の維持と企業の資金繰り支援が主たるものだが、不運にも原油価格の暴落が重なったことで、FRBにとっては、いかにしてデフレに落ち込まないよう対応するか、という次のさらに難しい課題が控える。
(三井住友銀行 チーフエコノミスト 西岡純子)
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
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May 06, 2020 at 04:00AM
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