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WTO敗訴を受け改正された情報機器産業への税制優遇措置(ブラジル) | 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ(日本貿易振興機構)

ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は2019年12月26日、議会が審議してきた情報産業法(Lei de Informática)の改正案を承認した。改正法は同日の官報に掲載され、施行は2020年4月1日となった。

改正された情報産業法は、WTO敗訴を受けて研究開発を促進するための優遇制度へと変更された。新たな優遇制度は、従来のようなブラジル国内で開発・製造を行う企業に対して工業品税(IPI)などを減税することを廃止し、国内で投下された研究開発投資額に対応して企業に税クレジットを付与するものとなり、2029年12月まで実施される。対象となるのは、半導体チップやコンピュータ機器、オートメーション機器、コンピュータプログラムなどだが、詳細なリストは今後、政令などで発出される。

改正法の条文はウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載されている。

1. 日本とEUの提訴が契機、期限間際に制度改正に至る

改正前の情報産業法では、情報通信機器分野の製造事業者に対して、ブラジル国内での生産や技術開発などを条件に各種の税制恩典措置を提供しており、これらの恩典を受けるには、国内で一定の生産を行うとともに、当局の定める生産工程に関する基準(基礎製造工程基準=PPB)を順守する必要があった。

このような優遇措置に対し、EUと日本は、税の優遇を受けるために輸入品を事実上不利に扱うものだとしてWTOに提訴した。EUはこの優遇措置に対して2013年12月にWTO上の二国間協議の要請、2014年10月にパネル設置要請を行った。日本は2015年7月に同じく二国間協議を要請、同年9月にパネル設置要請を行い、当初は別個の紛争案件としてスタートしたが、パネル審理の際にEUと日本の案件が統合された。2017年8月にパネル報告書が採択され、当事国による上訴を経て、2019年1月に最終審である上級委員会の報告でブラジルの税制優遇措置について敗訴が確定した。この結果、ブラジル政府は2019年12月末までに違反措置の撤廃・是正を行うことが求められた。

EUや日本がWTO紛争解決の対象とした税制優遇措置は下記のとおり複数あり、それぞれ根拠法が異なっている。

  • コンピュータ機器やオートメーション装置を対象としたlInformatics Program 〔根拠法:1991年法律第8,248号、通称Lei de Informática(情報産業法)〕
  • 半導体や集積回路を対象としたPADIS(根拠法:2007年法律第11,484号)
  • デジタル機器を対象としたDigital Inclusion Program(根拠法:2005年法律第11,196号)
  • デジタルテレビを対象としたPATVD(根拠法:2007年法律第11,484号)

このうち、Digital Inclusion ProgramとPATVDは既に失効していることから、今回の法改正では、Informatics ProgramやPADISが適切に是正されていくことに関心が寄せられた。特に、PADISは情報産業法とは根拠法を別にしており、PADISの是正が宙に浮く懸念があったが、議会審議の過程でPADISの改正に関する要素も情報産業法改正案に盛り込まれ審議された。

ブラジルでは、情報産業法改正案について、2019年9月からマルコス・ペレイラ下院議員(元商工サービス相)ら4議員連名による議員提出法案を基に議会審議が開始された。審議では、改正案の内容に関心を有する議員が修正案を提出し、所要の修正をした上で、11月27日に下院本会議で可決。その後の上院審議でさらに修正され、12月11日に上院本会議で可決。上院での修正内容を再度下院に諮って同月16日に下院本会議で可決した。

ボルソナーロ大統領は26日に一部条項を拒否した上で承認し、同日付の官報に2019年法律第13,969号として掲載され公布された。大統領が拒否権を行使した条項は、財政責任法と機会均等に抵触するものだった。

なお、ブラジル政府は、議会審議が遅延して12月末までに改正法案が成立しない場合と、議会審議の過程で法案が修正されWTOルール違反状態が十分に是正されない場合に備え、プランBとして大統領暫定措置令を準備していた。最終的には措置令を発令することなく、改正法が新たな制度の根拠法として公布されることとなった。

2. 研究開発投資額に応じた税額控除を受けるための実務

新たな情報産業法では、税控除制度を廃止し、企業が投下した研究開発投資額に応じて、税クレジットを獲得できることとしている。税クレジットのうち8割を法人所得税(IRPJ)の相殺に、2割を社会負担金(CSLL)の相殺に用いることができる制度設計となっており、連邦税の実質的な減税措置といえる。税クレジットを連邦税の相殺に充てられる有効期限は5年間だ。

対象となるのは、半導体チップやコンピュータ機器、オートメーション機器などの製造事業者やソフトウエア開発事業者などだが、詳細なリストは今後、政令などで公表される。なお、情報産業法に基づく現行の政令は2006年政令第5,906号で、ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載されている。

この情報産業法に規定された税クレジットの優遇措置を活用したい企業は、科学技術イノベーション通信省に申請書を提出して認可を受ける必要がある。企業は同省に対して、企業情報、対象となる製品やサービスに関する情報、売上高や投下した研究開発投資額などに関するデータを提出するとともに、基礎生産工程基準に関する認可を受ける必要もある。

認可を受けるには、当該企業のブラジル国内での売上高の5%を研究開発投資に回していることが必要とされているが、研究開発行為の意味する範囲は、企業独自に実施する研究開発行為だけでなく、ブラジルの公的研究機関との共同プロジェクト、これら公的研究機関の設備投資への拠出、科学技術開発基金(FNDCT)への資金預託、ブラジル政府の指定する重要プロジェクトへの参画でも、一定限度内ならば可とされている。

税クレジットの算出に当たっては、経済的発展度合いの点で他の地域に劣っているアマゾン地域や北東部、中西部を優遇するものとなっていることに加え、研究開発の実施では、ブラジル発の技術を活用したか否かでも、獲得できる税クレジットの上限に差が設けられることになった。また、税クレジットの恩典は年の経過とともに漸減していく。

さらに、連邦税の相殺に用いることのできる税クレジットには、企業のブラジル国内売上高に比した上限値が設けられており、これらを総合すると、次の表にまとめることができる。

表:連邦税の相殺に用いることのできる税クレジットの上限値(対売上高比%)
地域 期 間 外国産技術を活用した研究開発行為 ブラジル産技術を活用した研究開発行為
アマゾン、北東部、中西部地域 2024年まで 12.97% 13.65%
2025年~2026年 12.29% 12.97%
2027年~2029年 11.60% 11.60%
南部、南東部地域 2024年まで 10.92% 13.65%
2025年~2026年 10.24% 12.97%
2027年~2029年 9.56% 12.29%

出所:情報産業法を基にジェトロ作成

従来は別の法律で規定されていた半導体や集積回路を対象とした税制優遇措置のPADISの改正ついても、改正情報産業法の中で取り扱われているが、研究開発投資額に対応した税クレジットの上限値は、地域や国産技術活用の有無にかかわらず、13.10%となっている。

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